NHKBSプレミアムで昨日放送された「ダークサイドミステリー」
本当にあったミステリアスな事件を紐解く番組で、初回は実にドラマティックな内容でした。
「ナチスを騙した男 20世紀最大の贋作事件」と題し、贋作作家としてフェルメール作品を多く売り捌いた画家メーへレンの生涯を紐解き、なぜこんなことが起こったのか、真実に迫ります。
メーへレンは写実主義の画家。巧みな技術はたちまちに評価され若くして賞を受賞。
建築家を目指していた彼が、大きく画家へと将来の舵を切ったことがそもそもの悲劇の始まりでした。
彼が生きていた時代は20世紀。
これまで精巧に風景を描写したり、宗教画などが主流だった絵画の世界にピカソなどに代表される新しい風が吹くようになっていた。
シュールレアリズム、キュビズム、ダダイズム、これまでにない独創的なタッチや題材などがもてはやされるようになり、メーへレンは画家としてのスタートを切った瞬間から「古い」と言われるアーティストの代表とされるように。
絵が思うように売れず「絵画の修復」という道を選択せざるを得なくなった彼に、とある真贋が不明な著名画家の作品が持ち込まれた。
その傷みのひどい絵画をほぼ描き直す形で修復したところ、本物と称されて高値がつく。これにより、彼のさらなる転落人生が始まったのだ。
本物と一旦称された上で、権威ある専門家が登場。これは最近描かれた贋作であると見抜き、メーへレンもそれに加担したと批判された。
画家としてのプライドも地位も傷つけられたメーへレンは復讐を決意。
彼を貶めた権威ある専門家が、最も得意としている分野「フェルメール」の贋作で彼を見返してやろうと思いついたのだ。
以前読んだ、日本が巻き込まれた世紀の贋作画商と言われたイライ・サカイ についての本にも書いてあったけれど、
最も巧妙な贋作は、有名作品をコピーするのではなく「その作家が最も描きそうな未発表の作品を作ること」。
復讐に取り憑かれたメーへレンは、見破られた「年月による絵具の固まり具合」の壁を越えるために絵の具の調合に細工を施し、さらに年月による表面のひび割れ、そこに入り込んだ汚れまでも忠実に再現。
キャンバスもフェルメールが生きていた時代に描かれた別人の絵画を、丁寧に剥ぎ取ってからそこに描くという念の入れようでただ美術界に復讐するためだけに、フェルメールの絵画を作り上げた。
フェルメール作品は、作風が変わる間際数年間の作品が現存しておらず、「そのころに描かれたものがどこかにあるのではないか」という見方が強かった。
それを逆手にとったメーへレンは、うまく作風が変わる前と後の作品をミックスして、移行期の作品としての「贋作の新作」を描き上げていた。
この作品にかける並々ならぬ思いは、フェルメール作品を愛していたアート界の重鎮の願望を見事にすくいとったのだ。
この時期の作品があれば自分は世紀の大発見をしたことになる、という欲。フェルメール作品を研究し続けてきた自信。それが真贋を判定する目を狂わせた。
高値がつけられ復讐を遂げたメーへレンの手はその後止まることはなく、酒と薬物、そして女にも溺れながら、さらなる転落への道を辿ることになる。
フェルメールの贋作作品を次々と、ある富豪の持ち物だとして売り捌き、それはヒトラーに対抗心を燃やすナチス高官をも騙すことになった。
結局メーへレンは自白により、贋作作家であり、過去に本物と偽って大金を騙し取ったことが露呈されてしまうのだけれど、それは仕方のない事情からだった。
ナチスドイツが崩壊した際に、母国の宝であるフェルメール作品を敵国ナチス高官に売ったことが露呈したメーへレンは裏切り者としてバッシングを受けたのだ。
仕方なく「あれは贋作だ」と告白するメーへレン。真偽を求められたために法廷で実際に描いてみせたほど、彼の作品は精巧にフェルメールの画風を再現したものだった。
腕もあり、才能もあったメーへレン。けれどその生涯は嘘と葛藤に満ちたものだった。
大金を手に入れ、裕福な生活を送ってもなお、埋められない空白を酒と薬と女で必死で埋めようとしていた画家。
彼の作品も実際写されていたけれど、 正直フェルメールと言われてもあまりピンとこなかった。
巧みではあるけれど、魅力は感じなかったし、逆になぜこれを「本物だ」と断定してしまったのかわからなかった。
ただ、いかにもフェルメールのタッチで、これまで作品がないとされていた時代の貴重な発見かもしれない、という大きな期待感はプロの判断を鈍らせたのだ。
先述のイライ・サカイ も優秀なお抱えの贋作画家がいたとされる。
本物っぽいルートと作品、そして誰かのお墨付きがあれば疑う余地はない。
「それらしい」「そうであって欲しい」この思い込みが人の目を曇らせる。
今では相当厳しいチェックがあってオークションに出されるゆえ、いくらメーへレンのように技巧の限りを尽くして仕上げたとしても見抜かれる可能性は高いと思うけれど、まだ投資目的のアートがここまで盛り上がっていなかった時代には、いくらでもこんな事件は転がっているものだと思う。
メーへレンの贋作は、今でも美術館で「メーへレン」の作品として展示されていると言う。
体をボロボロにし、50代でこの世を去ったメーヘレン。
画家として輝かしい未来を想像していただろう彼の時代に翻弄された人生は、少し時代がずれていたらまた違っていただろうと皮肉な思いがした。
現代のアート界は高騰し続ける著名作家の作品の価格が、時に批判の対象になったり、画家本人の意向に沿ったものでないなどの問題を抱えている。ただ、紙幣の価値の変動、国の崩壊など先行きの見えない中で、ますますアートへの投資は加熱していくものだと思う。
また資金浄化や虚栄心を満たす手段としても、絵画は画家本人の思いとは別のところでますますその価値を高めている。
本来アートが持つ意味が揺らぐ、皮肉な現状にメーへレンのような熱い復讐心が一石を投じることが、今後もあるのだろうか。
このダークサイドミステリーは次は魔女狩りを取り上げるとのこと。これもまた人々の心理を巧みに利用した事件であると思う。興味深い。
本当にあったミステリアスな事件を紐解く番組で、初回は実にドラマティックな内容でした。
「ナチスを騙した男 20世紀最大の贋作事件」と題し、贋作作家としてフェルメール作品を多く売り捌いた画家メーへレンの生涯を紐解き、なぜこんなことが起こったのか、真実に迫ります。
メーへレンは写実主義の画家。巧みな技術はたちまちに評価され若くして賞を受賞。
建築家を目指していた彼が、大きく画家へと将来の舵を切ったことがそもそもの悲劇の始まりでした。
彼が生きていた時代は20世紀。
これまで精巧に風景を描写したり、宗教画などが主流だった絵画の世界にピカソなどに代表される新しい風が吹くようになっていた。
シュールレアリズム、キュビズム、ダダイズム、これまでにない独創的なタッチや題材などがもてはやされるようになり、メーへレンは画家としてのスタートを切った瞬間から「古い」と言われるアーティストの代表とされるように。
絵が思うように売れず「絵画の修復」という道を選択せざるを得なくなった彼に、とある真贋が不明な著名画家の作品が持ち込まれた。
その傷みのひどい絵画をほぼ描き直す形で修復したところ、本物と称されて高値がつく。これにより、彼のさらなる転落人生が始まったのだ。
本物と一旦称された上で、権威ある専門家が登場。これは最近描かれた贋作であると見抜き、メーへレンもそれに加担したと批判された。
画家としてのプライドも地位も傷つけられたメーへレンは復讐を決意。
彼を貶めた権威ある専門家が、最も得意としている分野「フェルメール」の贋作で彼を見返してやろうと思いついたのだ。
以前読んだ、日本が巻き込まれた世紀の贋作画商と言われたイライ・サカイ についての本にも書いてあったけれど、
最も巧妙な贋作は、有名作品をコピーするのではなく「その作家が最も描きそうな未発表の作品を作ること」。
復讐に取り憑かれたメーへレンは、見破られた「年月による絵具の固まり具合」の壁を越えるために絵の具の調合に細工を施し、さらに年月による表面のひび割れ、そこに入り込んだ汚れまでも忠実に再現。
キャンバスもフェルメールが生きていた時代に描かれた別人の絵画を、丁寧に剥ぎ取ってからそこに描くという念の入れようでただ美術界に復讐するためだけに、フェルメールの絵画を作り上げた。
フェルメール作品は、作風が変わる間際数年間の作品が現存しておらず、「そのころに描かれたものがどこかにあるのではないか」という見方が強かった。
それを逆手にとったメーへレンは、うまく作風が変わる前と後の作品をミックスして、移行期の作品としての「贋作の新作」を描き上げていた。
この作品にかける並々ならぬ思いは、フェルメール作品を愛していたアート界の重鎮の願望を見事にすくいとったのだ。
この時期の作品があれば自分は世紀の大発見をしたことになる、という欲。フェルメール作品を研究し続けてきた自信。それが真贋を判定する目を狂わせた。
高値がつけられ復讐を遂げたメーへレンの手はその後止まることはなく、酒と薬物、そして女にも溺れながら、さらなる転落への道を辿ることになる。
フェルメールの贋作作品を次々と、ある富豪の持ち物だとして売り捌き、それはヒトラーに対抗心を燃やすナチス高官をも騙すことになった。
結局メーへレンは自白により、贋作作家であり、過去に本物と偽って大金を騙し取ったことが露呈されてしまうのだけれど、それは仕方のない事情からだった。
ナチスドイツが崩壊した際に、母国の宝であるフェルメール作品を敵国ナチス高官に売ったことが露呈したメーへレンは裏切り者としてバッシングを受けたのだ。
仕方なく「あれは贋作だ」と告白するメーへレン。真偽を求められたために法廷で実際に描いてみせたほど、彼の作品は精巧にフェルメールの画風を再現したものだった。
腕もあり、才能もあったメーへレン。けれどその生涯は嘘と葛藤に満ちたものだった。
大金を手に入れ、裕福な生活を送ってもなお、埋められない空白を酒と薬と女で必死で埋めようとしていた画家。
彼の作品も実際写されていたけれど、 正直フェルメールと言われてもあまりピンとこなかった。
巧みではあるけれど、魅力は感じなかったし、逆になぜこれを「本物だ」と断定してしまったのかわからなかった。
ただ、いかにもフェルメールのタッチで、これまで作品がないとされていた時代の貴重な発見かもしれない、という大きな期待感はプロの判断を鈍らせたのだ。
先述のイライ・サカイ も優秀なお抱えの贋作画家がいたとされる。
本物っぽいルートと作品、そして誰かのお墨付きがあれば疑う余地はない。
「それらしい」「そうであって欲しい」この思い込みが人の目を曇らせる。
今では相当厳しいチェックがあってオークションに出されるゆえ、いくらメーへレンのように技巧の限りを尽くして仕上げたとしても見抜かれる可能性は高いと思うけれど、まだ投資目的のアートがここまで盛り上がっていなかった時代には、いくらでもこんな事件は転がっているものだと思う。
メーへレンの贋作は、今でも美術館で「メーへレン」の作品として展示されていると言う。
体をボロボロにし、50代でこの世を去ったメーヘレン。
画家として輝かしい未来を想像していただろう彼の時代に翻弄された人生は、少し時代がずれていたらまた違っていただろうと皮肉な思いがした。
現代のアート界は高騰し続ける著名作家の作品の価格が、時に批判の対象になったり、画家本人の意向に沿ったものでないなどの問題を抱えている。ただ、紙幣の価値の変動、国の崩壊など先行きの見えない中で、ますますアートへの投資は加熱していくものだと思う。
また資金浄化や虚栄心を満たす手段としても、絵画は画家本人の思いとは別のところでますますその価値を高めている。
本来アートが持つ意味が揺らぐ、皮肉な現状にメーへレンのような熱い復讐心が一石を投じることが、今後もあるのだろうか。
このダークサイドミステリーは次は魔女狩りを取り上げるとのこと。これもまた人々の心理を巧みに利用した事件であると思う。興味深い。