日曜日、外出自粛要請が続く中、買い置きの冷凍食品でランチを済ませた後は映画鑑賞タイムです。

映画「運び屋」。
主演と監督を務めるのはクリントイーストウッドですが、彼は1930年生まれですからもう90歳。この映画を撮ったのは80代後半も後半。主人公アールと同じく、精力的な意欲とパワーで第一線で活躍しているハリウッドスターです。
 
運び屋 [Blu-ray]
マイケル・ペーニャ
ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント
2019-11-06






デイリリーと言われる1日しか咲かない花を育てるのに精力を注いできた園芸家のアール。品評会では最高賞を受賞し、手広く農園を経営してきたがインターネットの台頭などにより、人生の晩年、事業はたちまちに傾く。仕事一筋で一番身近な家族を蔑ろにしてきた過去は重く、彼には借金とボロボロのトラック、家族たちからの罵倒しか残されていなかった。
そんな折、ひょんなことから「ただ運ぶ」だけという仕事を紹介されたアール。報酬に気をよくした彼は中身がヤバイものだと知った後も次々と仕事を成功させ、犯罪組織の信頼を得ていくことになる。


アールは栄光の中に生きている。
ウィットに富んだ会話、女たらしで気前が良くて、外面はいいけれど、ひとたび家族のことになると娘の結婚式にすら顔を出さないダメな男だ。
報酬の額や扱う人たちの人相から、薄々仕事内容に気付いていただろうに、アールは一度だけ、もう一度だけとやばいものを運ぶ仕事に手を染めていくようになる。

ボロのトラックを買い替え、農場を再び手に入れてもなお、家族からの拒絶に心が折れたのか、次々と法外な報酬を受け取り、そのお金を過去を取り戻すために使っていく。

友人からの賛美、美しく魅力的な女性からの奉仕、気分をよくし、身なりも整えたアールは生き生きと生活をエンジョイし始める。
ただし、仕事を優先するあまり家族のために全く時間を割いてこなかったアールは、温かな家族団欒とは
無縁。娘は会っても顔を背け、妻も口を開けば文句しか言わず、どんなにお金を稼いでも時間だけは取り戻せない。

アールは気付く。
失ったのは仕事だけではなく、家族との歴史。それはもう永遠に取り戻せない。稼いでどんなにお金を積んでも絶対に手に入らないもの。

やがて犯罪組織のいざこざに巻き込まれるようにして、アールは窮地に陥る。
彼には再度人生の選択肢が向けられることになる。義務なのか希望なのか、彼のラストの仕事が始まる。


アールという人物は第三者の目線で見ると、憎めない洒落たおじいちゃん、ということになりそうだけれど、それは家族には全く響いていない。
記念日、節目のセレモニー、誕生日、果ては子供の結婚という節目にまでことごとく背を向けてきたアールは、仕事に精を出すことこそが自分のやるべきことだと信じて疑わなかった人生から離れ、ようやく冷静に自分の今を見つめることになる。

繰り出すジョークや咄嗟の判断力、知識に裏打ちされた的確なアドバイス、どれも年齢の時間分培われてきた彼の能力。
そこには魅力が十分に詰まっていて、彼自身はとても魅力的な人物であることの証であるように思う。

その証拠に、散々苦労してきた妻は別れた後でも、アールの姿を見ると声が上ずり、乙女のような横顔を見せる。そして結局全てを突き放すことができないでいる。

彼は大金を手にし、身なりを整え、これ以上ないくらいのセレブなパーティーで魅力的な女に囲まれた上で結局、慎ましい家族との幸せを強烈に欲するようになるのだ。

自分が愛し、自分を愛してくれる人たちとの親密な時間の記憶、それが彼が最後まで手に入れられなかったもの。

過去の栄光をなぞるようにしてお金を使い自信を取り戻そうとしたアールだったが、それは未来へ繋がっていくことのない、虚しい栄華だった。

時間を無駄にするな、今からでも遅くはない。

そう遅くはない、後悔のない今を生きる。それが自分を作っていく。まるでその場にいるように、アールの行く末にハラハラした2時間でした。

クリントイーストウッドが魅力的。そして犯罪組織撲滅を狙う捜査官役のブラッドリークーパーもかなり素敵でした。
もう一度デイリリーに戻ったアールの、未来が穏やかであることを祈って。