映画「ナイブズアウト・名探偵と刃の館の秘密」を観ました。

ダニエルクレイグ主演ということで、007のボンド以外の彼を見るのはとても楽しみでした。

 

ミステリー作家の大御所であり一財産を築いたハーランが自身の85歳のバースデーパーティーの翌日、遺体となって発見される。死因は自殺。
葬式も終わり追悼式が行われようとするハーランの屋敷に一族が集まる日、事件の詳細を聞きに刑事と私立探偵ブラン(ダニエルクレイグ)が現れる。
ブランは謎の人物から雇われ、ハーランの死因を調査し直すためにやってきた。
彼は本当に自殺だったのか。もし他殺だとするならば、誰が彼を殺したのか。

ただ話を聞くうちに、ハーランの援助なしでは生きられない一族と彼との確執が浮き彫りになっていく。


上質な謎解きということで、トリックにつぐトリックなのかと前のめりになってストーリーに没頭していましたが、そこまで巧妙で繊細なトリックというわけではなく、あくまでもミステリーの王道に忠実なタイプのお話でした。

鍵を握るのは「嘘をつくと吐いてしまう」というハーラン専属の不遇な看護師マルタ。
彼女は時には一族のために、時には自分のために嘘をつこうとするのだけれどそれをすると吐き気をもよおしてしまい、すぐにバレてしまう。

そこに目をつけたブランは彼女を助手にして家族同士のいざこざを炙り出そうとする。

嘘をつくと吐いてしまうという不思議な身体特徴の持ち主のマルタ。
もしそんな反応をしてしまう体であれば、逆に何も考えることなく正直に生きられるのに、と思う。
自分に敵意のない人であればそれを守ろうとしてくれるだろうし、信用してくれるだろう。

嘘をつくことを拒絶してしまう体、それゆえにマルタは誰かが仕掛けたトリックに翻弄されることになる。

正直ものが馬鹿を見る世界ではいけない、そんなありきたりではあるけれど莫大な財産を巡り内に秘めた思いを爆発させる一族の醜い争いの前には美しい覚悟として輝く。それはマルタの大きな瞳が覚悟を秘めた時に、より光を増すように見えてくる。

刃の館という邦題、ナイブズアウトという(ナイフが抜かれている状態)題名、何が?と思うのですが、1つは一族の剥き出しになる攻撃的な心の内を表し、もう1つはミステリーの着想を得るために屋敷の中を様々に装飾したハーランの遊び心が冴えるオブジェの1つを指すのではないでしょうか。

美術セットに関するインタビュー記事で見つけた写真。
この監督の後ろにそびえるのが何度も劇中に出てくるナイフのオブジェ。
スクリーンショット 2020-02-03 14.44.36
 
これ、最後にキーとなって出てきます。

本当はもう少し二転三転があるかと期待していましたが、ストーリー展開も謎解きにしては珍しい方法で、一筋縄では行かないのだけれどそれにしてはやや凡庸で少し物足りない感も。

ハーランは富豪になった故に、家族と距離を取らなければならなくなった。
その人生に不満はなかったのだろうけど、自分が人生を終えた後のことをいつも考えていたのではないだろうか。 

その中で利害関係のない唯一の話し相手であった看護師のマルタに心を許していったのは当然のことかもしれない。

誰も孤独で不幸な結末など望んではいないのに、裕福になればなるほど思っても見なかった結末へと誘われていく。
彼が世界中を熱狂させたミステリーは、彼自身に仕掛けられたトリックの1つだったかと思うと、切なさも感じる物語だ。