「天才作家の妻40年目の真実」を観ました。
現在シネマイーラで上映中。

世界的作家であるジョセフは、ノーベル文学賞受賞の知らせを受ける。
直後にまるで若い夫婦のように手を取り合って喜ぶジョセフとジョーン。ジョセフとジョーンは先生と生徒という立場で知り合い、既婚者だったジョセフと略奪愛のようにして一緒になった2人。浮気癖が治らず、子供のように振る舞うわがままな夫ジョセフに尽くしてきたジョーンだったが、授賞式に出席するために息子と旅をしているうちに、自分の中にある抑えきれない感情がふつふつと湧き上がってくるのを感じる。
ジョーンはもともと作家志望だったが、若い頃には当たり前だった女流作家への偏見に対抗することができず、前に出ることを諦めていた。代わりに、着想に独自の視点を持つジョセフの影武者として支えて生きることに己の価値を見出していたのだが・・・

夫婦は二人三脚、公私にわたりお互いがお互いの存在を必要とすることで成り立っていた関係。
ジョセフは人気作家となる条件を兼ね備えた男、女であり独創的な視点に欠けるジョーンは表現力の卓越さで小説の肉付けをさせたら右に出るものはいない。
若い時から夫婦独特のルーティーンで、偉大で新しい小説にトライしていくジョセフという作家を作り出していった。ジョセフは言う「妻がいなければ今の私はない」。これは影で支えてきた妻を労わる理想的な夫の言葉。皆が感心し、おしどり夫婦ともてはやすが、その中で1人孤独に創作活動に携わってきたジョーンは言い知れぬ葛藤を抱えることになる。

原題は「The Wife」。妻という立場で夫の度重なる浮気にも耐え、全てを小説に捧げてきた女は、当然自分の生き方に誇りを持っていたはずだが、これ見よがしに夫だけが賞賛される場所に身を投じることによりくすぶり続けた心の奥底が爆発寸前まで追い詰められていく。

ただジョーンは名声が欲しかったわけではないと思う。ただそっとしておいて欲しかった。自分の本心になど気づかず、平穏に小さな幸せに満足する人生でありたかった。
幸せの価値など人それぞれで、誰かに言われて成立するわけでもなく、もしかして自分でもわからないのかもしれない。ジョーンの複雑な胸の内がその表情から痛いほど伝わり、知らないうちに涙が出ていました。

ジョーンの若い頃を演じた、アニースタークという女優さんがとても魅力的でした。どうやらジョーンを演じたグレンクローズの実の娘さんだとか。特に女性の演技力が光る素晴らしい作品でした。

グレンクローズのように品のある魅力的な歳の取り方をしたいな。女であることに誇りが持てる、そういう自信が全身から溢れています。