黒沢清監督作品、浅野忠信・深津絵里主演の映画「岸辺の旅」を観ました。2015年日本。



瑞希(深津絵里)の前に、3年前に失踪した夫である優介(浅野忠信)が現れる。ただ彼はもう自分は死んでいると告げ、「この3年間でお世話になった人に会い、美しい風景を見に行くから一緒に行こう」と旅に誘ってきた。戸惑いながらも瑞希は夫との旅に出ることにする。
そこで出会った人たちは、いずれも「死」を心の中に大きく抱えている人たちばかり。
優介と過ごし、その人たちのエピソードに触れるうちに瑞希は優介との別れを悟るのだった。


突然失踪した夫を手を尽くして調べ上げ、ついにはなすすべもなく待ち続けるしかなかった瑞希はその姿を見るなりすぐ、優介の帰りを受け入れる。「死」という半ば覚悟した結末を告げられた彼女は、言われるがままに姿形はそのままの夫に導かれて旅をする決意をした。
彼の意外な一面を垣間見るたびに、彼への愛情を確認する瑞希。
どんな形でもいい、このままずっと一緒にいたい。
そんな思いを断ち切らせたのは、彼から紹介された人たちとの触れ合いだった。

瑞希が、現実に馴染めずに日々を漫然と暮らす横顔から一転、彼に導かれる旅先でいろんなことを受け入れ、そこで思うがままに過ごすことで徐々に自分を取り戻していく。
これを観て思うのは、死というものに対して時間が必要になるのは生きてこれからの人生をまだ辿っていかなければならない人たちのほうで、未練という名で曖昧な世界に居続ける人たちはその想いに影響されているに過ぎないのかもしれない、ということ。

別れを受け入れる時間が瑞希には必要だった、それに応えるように優介は様々に、別れを知るのに必要な出会いを探して歩いていた。それは勝手なことをしてしまった優介の、最後の思いやりなのかもしれない。

瑞希と対峙する、優介のかつての愛人朋子を演じた蒼井優の存在感がすごい。
あんな風に言われちゃったら、妻は打つ手なし、なのだろうなぁ。強い女はいいけれど、怖い女は嫌だ。これ本心(笑)

岸辺の旅
深津絵里
2016-04-15



岸辺の旅 (文春文庫)
湯本 香樹実
文藝春秋
2012-08-03