映画「さよなら歌舞伎町」を観ました。2015年日本。

一流ホテル勤務のはずだったと自分を押し殺して働くラブホ店長(染谷将太)と、プロデビューを夢見て音楽プロデューサーと関係をもつその恋人の沙耶(前田敦子)。韓国から夢を叶えるために日本にやってきて、それぞれ秘密を持ちながら暮らしているヘナとチョンス。夫を殺してくれた男(松重豊)と駆け落ち同然で逃げている女(南果歩)、時効の15年は目前に迫っている。
訳ありの男と女、それぞれの想いを抱えながら、新宿歌舞伎町のラブホ「アトラス」に集い、そして散っていく。
そんなラブホの一日を描いた作品。


 

表示される時間とともに、観ているこちらも一日をともに過ごしているような気分になる作品でした。
本当はこうじゃなかったのに、と道がそれたポイントに戻ることもできず、そもそも戻りたいという気持ちがあるのかもわからずに、日々を過ごしている男と女。
ただ一生懸命だったはずで、誰からも責められることなんてないのに、でも少しも迷いがないかと言えば嘘になる、そんな普通の、当たり前の人たちを追った本作。

特に劇的なことでもなく、でも退屈ではない、誰にでも当たり前にある一日という時間をそれでも進むしかできない気持ちとともに一緒に駆け抜けた、そんな達成感のある作品でした。

特に、時効を控え、息を潜めて愛しい男を守ろうと必死で生き抜く女、南果歩が圧巻。
最後に彼女が観た景色は、どんなものだっただろうかとそんな想いにとらわれました。

どんな場所でも、どんな暮らしでも、強い気持ちで乗り切ろうとする、「人」としてのしなやかさ、たくましさをじっくりと感じさせられました。

抜け出すことというのは、思った以上にしぶとくて手強い。そこに向かう覚悟ができたとき、人は別の場所にいくことができるのだと、そんな風に思う。